丁寧に一途に
心を込めて出雲を醸す
しめ縄付きの大きな杉玉が吊るされた富士酒造の店先。しめ縄の先、つまりそこからは「神域」である。
「お酒って神仏に奉納したり祝事に使う神聖なもの。神聖なところで造りたいという思いを込めている」。そう話すのは富士酒造の4代目で杜氏の今岡稔晶さん。
代表銘柄は「出雲富士」。出雲の地で富士山のような日本一の酒造りをと、昭和14年に命名された。
創業は明らかでないが、蔵を改修した職人によると江戸末期の建物という。昭和のはじめ頃、先代の蔵元が造り酒屋を畳むことになり、日本酒のブレンダーをしていた今岡さんの曾祖父が蔵を引き継いだ。
今岡さんが杜氏を継ぐまでの出雲富士は、代々ベテランの出雲杜氏の手により醸されていた。
今岡さんは中学の頃から蔵人を目指し、杜氏の勧めもあって高校卒業後は東京農業大学醸造科へ進学したが、大学を卒業した年に杜氏が他界。迷う間もなく、2006年に23歳という若さで富士酒造の杜氏となった。
「何も受け継げないまま、とにかく全部自分でやるしかなかった。五感六感をフルに活用して酒造りに邁進してきました」と今岡さんは話す。
杜氏としては手探り状態でのスタートだったが真摯な努力が実を結び、17年経った今では全国的に評価される名酒となった。
神話ゆかりの水と木槽が造るやさしい味わい
使用する酒米は佐香錦、山田錦、五百万石の3種類。一部山田錦の特等米を除いては全て県内産という。
仕込み水には斐伊川の伏流水を使用。水質は軟水で、出雲富士の優しい酒質を造り出している。
「柔らかくてすごくきれいな水です。斐伊川は神話ヤマタノオロチに例えられる川で、お酒が出てくる物語。その川の伏流水でお酒が造れるのはこの地域の酒蔵の特権だと思っています」と今岡さんは言う。
酒は全て木槽搾り。食事に合わせやすく、調和のとれた出雲富士の優しい味わいを出すには、木槽搾りが合っているという。
そして今岡さんが杜氏としてこだわるのは、全ての酒を同じように造ること。高い酒だから特別に手をかけたり、安い酒だから機械で造るといった造り分けは一切無し。
米の種類や精米歩合、酵母等に違いはあれど、手間暇の部分は全て同じように手をかけ、槽で搾るという。
「高い酒も安い酒も、お客様にとってはどれも出雲富士。どの酒も我々ができることはベストを尽くして造りたい」と話す。
その年のベストを造るためには思い切った設備の変更や製造方法の変更もいとわない。老舗ではない分、守るものが少ないという強みはあるが、同時に日本酒発祥の地としての責任も感じているという。
「真っ当で伝統的な酒造りの技術を、良い形で後世に継承していくこと。工業製品としてのお酒もいいけど、ここはオーソドックスな地酒を造る土地柄だと思っています」。
今岡さんは出雲富士の由来に新たに「出雲を醸し、富士を志す」という思いを加え、誠実に一途に出雲の酒を醸している。
杜氏の今岡稔晶さん
最初は面倒だと思っていた木槽搾りも、この木槽がうちにあるのも何かの縁と、今では愛着を持って酒を搾っています。
素手で触れるものは触り、香りで嗅げるものは嗅いで、耳で聞いて、目で見る、五感を使った酒造りを大切にしています。
富士酒造オススメの5本
温度帯はいずれも冷からぬる燗がオススメ
出雲富士 手づくり純米(出雲地区限定発売)
安心できる酒米で造りたいという杜氏の思いから、農薬も化学肥料も殆ど使わない減農薬減化学肥料の酒米で醸した酒。出雲市の南部にある野尻地区の営農組合が、出雲富士のためだけに丹精込めて栽培した佐香錦を使用し、米の旨味や複雑味のあるワイルドな酒質に仕上げた。辛口でしっかりめの味わいだが、口当たりは柔らかくて飲みやすい。
出雲富士 手づくり純米吟醸(出雲地区限定発売)
こちらも野尻地区産の減農薬減化学肥料で栽培した佐香錦を100%使用。白ラベルの「手づくり純米」とは精米歩合が違い、純米65%に対し、純米吟醸は55%まで磨き上げている。純米に比べて華やかでクリアな味わい、サラリとした飲み心地が楽しめる。
出雲富士 純米吟醸[赤ラベル]
伝統の出雲杜氏流吟醸造りを継承し、低温で醸して昔ながらの木槽で優しく搾った酒。山田錦50%の直球ど真ん中の純米吟醸酒。お米のきれいな甘みと華やかな吟醸の香り、いわゆる出雲杜氏の吟醸造りの真髄といった酒造りが表現されている。
出雲富士 純米吟醸 超辛口[青ラベル]
精米歩合55%の佐香錦で仕込んだ爽快辛口純米吟醸。ホットなタイプの辛口ではなく、クールでドライな辛口で、日本酒度は+15だが、軟水で造り木槽で搾るので数値ほどの辛さは感じない。出雲富士ならではのスッキリきれいな辛口を味わえる。
出雲富士 純米大吟醸 天の叢雲
神話「八岐大蛇(やまたのおろち)」からヒントを得て造られた酒。八岐大蛇ゆかりの斐伊川の伏流水と、大蛇を退治した須佐之男命(すさのおのみこと)の御魂が祀られる佐田町で栽培された山田錦で醸した純米大吟醸。山田錦を35%まで磨き上げた贅沢な造りで、上品でフルーティーな香りと柔らかさの中にもしっかりとした骨格を感じられる極上の味わい。
※天の叢雲(あまのむらくも)
蔵の基本情報
訪問/見学不可・試飲不可・販売あり
蔵周辺の楽しみ方
代官町
出雲市駅から徒歩すぐの繁華街。
サンロード中町
出雲市駅から徒歩3分、商家の町並みが残るアーケード商店街。
詳細
名称 | 富士酒造 |
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カテゴリー | 地酒 |
住所 | 出雲市今市町1403 |
問い合わせ電話番号 | 0853-21-1510 |
営業時間 | 9:00 ~ 17:00 |
定休日 | 土・日・祝 |
駐車場 | 有り |
リンク | https://izumofuji.com/ |
交通アクセス | ・JR出雲市駅から徒歩5分 ・出雲大社から車で20分 |